私はエンプティー。どうしようもない程のエンプティー。
見えないもので溢れているこの街を、美しいはずのこの街を、ただただ私は歩くのだけど、
辺りに落ちてある沢山の“美”を感受する能力は私には無くて、沢山見落とし、沢山を無駄にしていた。
今日はなんだかそれを勿体無いな。と、この住み慣れた街で、1人佇んでいたのだった。
ただ歩いてるだけ、何も掴めてないんだ。と、
空っぽのポケットに手を入れてエンプティーを睨んだ。
ユラユラと潤む瞳は、誰にも気付かれずに一滴だけ何かを零し、すぐに渇いてしまった。
悔しい事に跡にもならなかった。
私は私がいつの時も憎かった。
なんだかそれが今日はとてつもなく悔しかったんだ。
この世に生を受けた者として、とても恥ずかしくて、申し訳なくて、なんだかそんな自分をどうしても認めたくなかった。
だから私は徐ろに、街にカメラを向けて、時を止めてみたけれど、愚にもつかない事だ。と、その場に崩れ落ちそうになった。壊れそうだった。
私はいつも、もがくだけで、取りに行こうとしないし、
悲しむだけで、苦しむだけで、駄々をこねるだけで、越えようとしない。闘う事もしなければ、得ようともしない。
もちろん身を削ったり、弱さを殺したりもしないし、我慢もしない。何もかも見ようとしなかった。
どうせ、私は空虚だ。空洞で、零していくだけだ。と言い訳をして。
できるならば「見えないんだもの」で済ましたい。
だって怖いから、見てしまえば殺さないといけなくなるから、そんなのめんどくさいから、向き合わないといけなくなるから、目を塞いだ方がマシだ。と正当化をして。
でも今日はなんだかそれが勿体無いなぁ。と、空っぽのくせに一丁前に思ったんだ。
私は私に期待をしないし、励ましてあげることも
教えてあげることもしないくせに、
一丁前に勿体無い人生の過ごし方をしたなぁ。って漠然とだけど、思ったのだった。
私が転げ落ちる様を誰かは眺めていたけれど
手を差し伸べる事などしなかった。
「大丈夫だよ」と根拠もない期待をチラつかせ、“幸せ”を隠してくれた。
私は頭が悪いから、「見えないなぁ」と騙された振りをする事しかできなかった。
その理由は、ただ一つ
自分が嫌いだから。だった。
見ようとしないのは、越えようとしないのは
自分が気持ち悪かったから。だった。
答えはとても単純で、容易すぎた。
期待をせず信じてあげればいい。
見えなくても、見えると思い込めばいい。
辺りに落ちた“美”を自分が創ればいい。
それだけだった。
徐ろに私が止めた、住み慣れたその街は
いつもより少しだけ前向きで力強く見えた。
ちっぽけな私の背中を押して、微笑んでくれた。
エンプティーな私に、愛を映してくれた。
今日、私は見えなかったはずの街から
“愛”を感受できたのだと喜んだ。
決してこれは能力ではないだろうけれど、悔しさの雫が奇跡を起こしたのだと信じ込む事にした。
私は少しだけ好きになった。
いつもの街と、いつも通りの私と、確かに動くこの心臓を。
エンプティーだろうが構わないと、初めて思えたのだった。