一瞬間に奪われたはなし。
仕草や、言葉がいちいちあざとくて、声も可愛い。
男性と接する時、必要以上に距離が近くて、
女という武器を最大限に使いこなす女性。
見たこともない、名前も知らない女性。
先程、現れたその女は、当たり前のように私の好きな人に近付いては、刹那に彼の心を奪っていった。
別にコソコソする訳でもなく、堂々と奪っていった。
いともたやすく、テンプレートのような華麗さで。
その日は雨だった。
私は、女の生放送を覗く。
すると、聞き慣れている男の声がした。
まさか!?とは思ったけれど、紛れもない。
私の好きな人は、そこにいる。
会話を弾ませ、とても楽しそうに、そこにいた。
場所は、たぶんカラオケだろう。
きっと2人の距離も近いのだろう。
映像に映らない、2人の状況を妄想し、どんどんと、広げていく。
私の才能、自分自身を痛めつける事にはストイックなところ。
女は、甘えた声を出して彼を呼んだ。
その瞬間、私のスイッチは入った。
「こんにちわ」
とコメントを打ち、私が見ているよ。という事を2人にお知らせしてあげた。
「だれ?」女は彼に聞く。
彼は「あー。」とだけ言い、暫く黙った後、
「今日初めて遊んでるー」と、よくわからない言い訳をした。
「でも明日も2人でいるんだよねー?」
と、あざとく女が彼に問いかける。
「まあ、俺から誘ったけど、予定は未定だからね」
あぁ自分から誘ったんだ…
それからの2人の会話は一切、耳に入ってこなかった。遮断した。
男って生き物はなんでこうも単純で軽易で、とんちんかんなんだろうか。
私は怒りと諦めの狭間で、あまり美しくない涙を流してしまった。涙が勿体ない。
悔しかった。何も出来ない事が、ただ悔しかった。
こんなにも一瞬間で奪われてしまった事が、悔しくてやりきれなかった。
私は自分の太ももを1発殴った。
────
と、そこで目が覚めた。
しばらく天井を眺め、さっきのが夢だった。と気付いた瞬間、
私は「なんだ夢かぁー。」と、わざと声に出して言って、勝ち誇った笑みを浮かべたのだった。
なぜなら
【好きな人が他人に奪われる夢】
が、吉夢だという事を私は知っていたからだ。
今日はいい日だ。