れしをそう。

嘘。そう全部、嘘。Twitter:@nisemonoko

明日の私に「ただいま」。

街を歩いていると、どこからか、お線香のにおいがした。

そのにおいを頼りに私は、歩き続けた。

目をキョロキョロとさせ、鼻をクンクンさせて、たどり着いた場所は、人形供養の神社だった。

 

そこには人形がズラーッと沢山並んでいて、一瞬ゾワッとしたけれど

しばらく、お線香のにおいに包まれながら、ただただその光景を眺めていた。

 

人形には魂が宿る。とは昔聞いたことあったけれど

その場所に立ち尽くしながら、私は確信した。

たぶんそこに並ぶ1体1体に魂が宿っている。となんだかよくわからないけれど、確信した。

 

 

私がまだ子供の頃、人形遊びをして、人形同士を会話させて遊んでいた事を思い出した。

 

「ねぇ君は、誰かに支配されているって思う?」

「思わないよ、そんな事」

「私はね、気付いたんだ。私達は、誰かに支配されて今動いてるんだって」

「え?一体誰に?」

「知らない。」

 

たぶんこんなような会話をさせて、私は興奮していたのだと思う。

だって、誰かに支配されているのかも。と、戸惑っているその人形たちを支配しているのは私だったから。

なんだか、そのシチュエーションにすごく興奮していた。

 

そして、私は夜眠る時、いつもこんな妄想を膨らましていた。

 「私も誰かによって支配されて動いてるんだろうな」

 そんな根拠も無い、意味不明な解釈をして

「今寝ると思ったでしょう?私は眠りませーん。」

みたいな、よくわからない誰かに対しての反抗をしたりして遊んでいた。

だいぶ狂った子供だったのだと思う。

 

そして、よく夢を見た。

それは私が支配している、その人形たちと一緒に暮らす夢。

 

人形たちは、私の事を一瞬たりとも疑わなかった。

まさかいつもこの人に操られているんだ。なんて気付いてもいなかった。

人形たちはいつも優しかったし、私を小さな部屋に招いて、何時間も一緒に遊んでくれた。

その夢は、いつも楽しかった。

 

だから私は、その人形たちがとても大好きだったし

一生、一緒に遊んでいくものだと思ってた。

感情移入もしていたし、私がいつか大人になってしまうんだ。なんて思ってもいなかった。

 

 

そして何年も経ち、私は気づいたら大人になっていた。

 

そして今、人形供養の神社の前で、久しぶりにあの頃一緒に遊んだ人形たちの事を思い出していた。

 

今どこにあるのだろう。きっともう捨ててしまったのだろうな。

 

何故か無性に「ごめんね」と謝りたくなった。

今日まで思い出さなくて「ごめんね」と、あんなに沢山私に優しくしてくれたり、一緒に遊んだのに

忘れてしまって、魂を宿しておいて何もしてあげられなくて、

もういらない。って何の感情も抱かずに捨ててしまって「ごめんね」と、すごく悲しい気持ちになった。なんだか泣きたくなった。

 

もしも、その人形たちに本当に魂が宿っていたとするならば

私を憎んでいるだろうし、私に気付いて欲しかっただろうし、寂しかったに違いない。悔しかったに違いない。

 と、そう思った私は

人形供養の神社の前で、

「あの頃の私の大好きな人形たちさん、私はあなたたちと過ごした楽しい時間をちゃんと覚えてます。

いや、思い出しました。

あの頃は、優しくしてくれてありがとう。安らかに眠って。愛してるよ」

と、目を閉じ心で祈った。

 

 

きっと、こんなこと無駄だと思う。

きっと、馬鹿馬鹿しいことだと思う。

 

でもお線香のにおいに、酔いしれた私は

あの頃の記憶を少しだけ思い出せた。すごくいい時間だった。

 

 

街を歩いていると、色んなものを拾う。

そして色んな感情や、思い出に出会う。

 

私は、そして、また歩き始める。

過去ではなく、明日に歩き続ける。

 

そして帰るべき場所に、明日の私に笑顔で「ただいま」と言う。

 今日を生かしてくれて「ありがとう」 と言うのだ。