味の無い飴玉
「私は何もないんで、何もできないです。何もできなくなったんです。色んな人の足を引っ張ります、いつも期待を裏切ります。いつもです。いつもなんです。あぁ田舎に隠れないといけないでしょうか。でもそんな田舎に逃げてしまうような、私が私は嫌いです。」
匿名希望さん
「私は今のままのさあ子さんが好きですよ」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
昔、沢山の人の前で話をする時、私は向けられた人の視線に
「この人たちは何を求めていて、私を見てるんだろう」を考えながら話をした。そして、話ができた。
「さあこさんは本番に強いね」
「さあこさんがいてくれてほんとに良かった」
「さあこさんにはほんとに助かっているよ」
しかし、私はこんな言葉達を何度も跡形も無くなるくらいにすり潰しては「私は求められると疲れる」と吐き捨て続けた。
そう、沢山の人の“想い”を無下に扱って生きてしまった。
何度も何度も“期待”を嫌って生きてきてしまった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「さあこは頭がいいのにどうしてこうなったの?」
「君はどうして人と同じことができないの」
「どうして、君はいつまでも幸せになろうとしないの?」
味の無い飴玉を口に頬り込んで、いつかを待った。
いつか皆が私を諦める日を待った。
ポケットにはいつくもの飴玉を忍ばしながら、皆の“期待”が消えるのを待った。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
その日は空は雨をこれでもかってくらいに吐いて
傘のない私を濡らし続けた。
「どうしてこんなに何も出来ないの、私は私をいつか好きになれるの」
ずぶ濡れになったジャケットのポケットに手を入れて
あの日忍ばせた飴玉に触れて思い出した。
その飴玉をひとつ口に入れて、全く味を感じられない事に、味が無いことにこれでもかってくらいに泣いた。
空が吐いた水に紛れて、辺りを濡らし続けた。
そうだ思い出した。
わたしが“期待”を避け続けたんだった。
私が人の“想い”を殺め続けたんだった。
私がこうなる事を願い続けたんだった。
私のせい、私のせいだった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「さあこさんはこれするの上手ですね」
「私はさあこさんを期待してますよ」
その日
「わたし、まだやり続けます。期待し続けていきます。もっと皆さまの役に立てるように努力します」
を書き加えた。
「今月の目標は、文字をもう1度書いていきます。それと本を2冊読みます」と、定めた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
あの日、ポケットの味の無い飴玉は全部捨てた。
もうポケットには何も忍ばせない。
いつか誰かに飴玉を貰える日まで、そのスペースだけを空けて。