「2018年、はる、インストール」
「久しぶり、去年の私より綺麗になったかな?」
その返事は私の耳には、何も聞こえてはこなかったけど、
逞しく、立派に咲くその姿は、去年より綺麗だった気がした。
2018年の桜
覚えてる、去年の私は約束した。
2017年の桜の前で、涙を流しながら、約束した。
「2018年の桜の前では立派になっているように誓うよ。」と、必死に約束した。
あれから1年、また同じように、皆平等に、何も狂うことなく、相変わらず、春はやってきてた。
「よっ!久しぶり」と、
「待っていただろ?」と、
すごく得意気に、とても華麗に桜は咲いてくれた。
去年交わした約束通り、私は桜の前で、
また同じように、また話をはじめる。
「あれからね、いっぱい色んなことがあったよ。」
絶対に揺らぐことなんてないんだろうな。と、思うような、太い幹。逞しいよ。
「いっぱい泣いたし、いっぱい幸せだったし、いっぱい苦しかったし、いっぱい悔しいと思ったんだよ。」
薄い可愛らしいピンク色。
君は自分が可愛い事をちゃんと知っているんだろうな。
「でもね、いっぱい越えたりもした。去年の私には無かった感情をいっぱい抱いたりしてね、その感情で乗り越えていけたことも、いっぱいあったんだよ」
風がサラサラと撫でて、可愛いピンクの花びらが長い時間をかけて地面に落ちた。
「ちゃんと変わってこれたかなんて、わからない。
だけどね、去年と一つだけ違うことがあるんだよ。
それはね、
今年はあなたを見ても悲しくならないんだ。
もう行かないで。って、散らないで。って全く思わない。
それに、君からあんなに怖かったサヨナラが伝わってこない。
この季節を大嫌いにならない。
あのね、私ね、
きっとあなたにとっては、激的に美しくはなれてないかもしれないけど、
たくさん手にしたものと、たくさん失ったもののお陰で、“ 終わり”と、ちゃんと向き合えるようになったんだと思うの。
だからね、君が1週間後、
地面に散らばっていても、去年のような話はできないんだと思う。
今は、ちゃんと上手にお別れが出来るんだと思う。
また来年会おうね。
来年こそ胸を張って笑顔で幸せを見せられるように頑張るね。
って惜しむこと無く、約束ができると思う。
あのね、
寂しいようで、寂しくないんだって思うんだ。
去年より孤独なようで、孤独じゃないって
頑張れてないようで、すごく頑張ってきたんだと思うんだ。
君は、いつになく美しいね。
去年よりも綺麗だと思う。
いつだって君は、1番美しく咲いてくるからすごいよね。尊敬するよ。
まあ、そんな君のあざといさが、私が君を好きになれない理由なんだけど、
何度だって私の話を聞いてくれる、君をたぶん私は1番信頼してると思うんだ。
また来年もここで逢える。って確信することができるから安心するんだ。
だから、どの春だって君を待ってるよ。
あと少しして、君がバラバラに散ってしまっても、
私はいつもみたいに話しかけるから、
ちゃんと春が去るまでは、そこで見ててね。
私をちゃんと見ててね。」
身体は、すっかり冷たくなっていて、周りにいたはずの人もすっかりいなくなっていた。
時間は、平等に過ぎていたはずなのだけど、
私だけ、そこに取り残されていたような気分になる。
「また春はやってくる。」
もしも何かの手違いで、春が季節から剥ぎ取られてしまったとしても、
私は春をちゃんと覚えてる。
それに、2018年の春をちゃんと答えられる。
その時、私の春は、更新された。
2018年の桜、いんすとーる。
明日も頑張って生きよう、そう、君のために。